スカイブルー。

ちょっとした打ち合わせを新宿で済ませ、帰りの電車に乗り込んだのは１６時すぎ。まだまだ沈まぬ太陽を体全体で受け止めて、東京をぐるっとひた走る山手線。車内は空いてもおらず混んでもおらず、まるで幕の内弁当のように豊富な種類の人間が乗っておりました。

（あの企画もダメっぽいかなぁ…）

なかなか上手く運ばぬ仕事が背中に重くのしかかり、車窓から見えるボロアパートに向かってため息をひとつ。よく見りゃ周りにも似たような顔をした人間が幾人か。

メシ食ってクソして寝れば明日は来る。誰の上にも朝日は昇る。…本当は必ず昇るとは言い切れないのだけれども、そういうイレギュラーを無視して人間は生きていく。今日も明日も明後日も。

渋谷駅に到着し、あふれ出る人波に身を預けながら降車。足取りは重くもなく軽くもなく。ただひとつだけ確かだったことは、人の波のせいで歩行速度が大幅に落ちたことだけ。

えっちらおっちらと階段を降り、改札をパスするためにSuicaを取り出す。こんなパキパキのカード１枚でお金のやり取りをする時代が来ようとは、一体誰が想像しただろう。太平洋戦争が終わったのはほんの６０年ちょい前、もっと言うなら江戸時代が終わったのはたったの１４０年ほど前の話だ。不思議な気分にとらわれつつ、文明の利器をピッとタッチしたその時━







自動改札の横っちょに座り込んでいる女子高生を発見！　業界用語でいうならシージョセイコーだ。シージョは周囲の視線などお構いなしに電話をかけている。そして、改札を抜けた時にチラ見すれば角度的にスカートの中が見えそうではないか。

なんたる幸運。なんたる神のおぼしめし。いろいろあったけど、結局のところ今日もいい日だったというわけだ。これでオレは明日からも生きてゆける。よし、帰りにケーキでも買おう。

いや待てよ。なんだかんだ言って私も２８歳のいい大人。シージョのツンパごときで興奮する歳でもないだろう。それに、ツンパなど所詮は布きれに過ぎぬ。そんなものを見たところで、今夜のオカズにもならないではないか。


…。


はっ！

ツンパを履いていないという線もなくはないぞ。もしそうならシージョの赤貝がパックリと…いかん。想像しただけで辛抱たまらん。これはチャンスか。千載一遇のチャンスなのか！？

いやいや。そんなことでいちいち鼻息を荒くしていたのでは落ち着いた三十路は迎えられないだろう。この先、子供ができたと仮定して、その子が誇れるような大人にオレはならねばならぬ。一瞬の欲望など５分もすれば消える。

だから私はシージョのツンパなど見ない。絶対に見ない！



一瞬の永遠。刹那の恒久。自動改札でICカードをタッチしてから改札を抜けるまで、長い長い瞬間的な物語でした。